第8話 疑惑に囚われた将之

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 そこは、新入生で溢れかえっていた。 「だろ。ま、この新入生の大体のめあては決まっているんだけど、ね」  苦笑いで言う五代に 「めあて? 部活見学じゃないの?」  将之が不思議そうに尋ねた。  五代が説明しようとしたその矢先、わっと歓声が上がる。  それで 「百聞は一見にしかず」  と言って、五代は指さした。  その先には 「……すっげ。何? あの人……超美人」  思わず将之が呟く。  四月といえど、防具を付けたままではかなり蒸れる。  練習試合が終われば、早々に面だけでも取る。  その人も、試合が終わったのだろう。  面を取ったその時に、歓声が起こったのだ。  その人は歓声が上がった方をじろりと睨むと、面白くなさそうな表情でぷいと横を向いた。 (面白半分に来やがって……)  と言った風情だ。  暑かったのだろう。  髪をまとめていた手ぬぐいを、手早く取って適当に汗を拭いたのだが、汗に濡れた前髪がはらりと垂れ、その仕草は尚も観衆をうっとりとさせていた。  当人はそれが不本意なのだろう。  人目が付かぬ道場の端に、不機嫌な態度で引っ込んでしまった。  奥に行くその男に 「平野の一挙手一投足に、湧いているなぁ」     
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