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同じ三年であり、剣道部部長の小松谷臣也(こまつだに・しんや)が語りかけた。
「……俺、もう、帰りたい。帰っていいか?」
ぼそりと知己が返事した。
「まあまあ。とりあえず、入部希望者をある程度獲得してから、帰れ」
「俺は、人寄せか?」
「どっちかといえば、ハニートラップという方が正しいんじゃないか?」
と、うっかり答えた小松谷に、知己が汗臭い手ぬぐいを思いっきり投げつけたのは言うまでもない。
「はー。目の正月になった」
入部届を出した将之が、五代に話しかけた。
「だろ? 平野先輩見たさに剣道部に入る奴は多いって聞くよ」
駅まで十分の道のりを歩きながら、二人は話した。
「あの手ぬぐい取った時の色っぽさったら、なかったよな」
「分かる、分かる」
「あれでもっと胸があったら、マジ理想。最高なんだけど……」
「え? あれ? 中位君……?」
「僕、グラマラスな人が好きなんだよね」
「な、中位君……?」
「何? 五代君は、胸の大きさに構わない方?」
「あの……?」
「僕は、やはりある程度の大きさは欲しいんだよね。なんというか……男のロマンとして」
そんな男のロマンなどは、聞いていないのだが。
「な……中位君ってば!」
まったく人の話を聞こうとしない将之に、五代が叫んだ。
「何?」
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