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ご機嫌に話していたのに、邪魔をされて将之が五代を睨んだ。
「平野先輩に胸囲を求めちゃダメだよ」
「なんで?」
「だって、先輩、男だよ。胸囲あったら、気持ち悪いじゃない?」
「は?」
「は? ……じゃないよ。僕らの通っている学校、男子校じゃないか。中学部までは共学だけど、高等部からは男女別学のシステムとっているんだから、平野先輩は、れっきとした男だよ」
「え……?」
しばしの間。
「……分かってたよ。もちろん」
やがて、平静を装いながら五代に告げた。
堂々というので訂正した五代の方が、余計な気を回したかと恐縮するくらいだ。
(そうか。つい、中学部の延長のノリで考えてた。礼ちゃんも、中学部に通っているし、失念していた……)
おくびにも出さず、将之は思った。
中位礼(なかい・あや)は、将之の三つ下の妹である。
今回、中位父の転勤で、一家揃って引っ越してきた。
「ウィットに富んだジョークだよ。ちゃんと平野先輩が男装の麗人だと分かって、ふざけて言ったんだ」
将之が胸を張って言ったが、
「それ、誤用だよ。男装の麗人って、女性に対して言う言葉だよ」
「え? そうなんだ」
墓穴を更に深く掘り下げる真似をしてしまった。
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