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「あの大会の時、後二人の選手枠を誰にしようか顧問が悩んでた時、お前と俺ともう一人。実力的に並んでいて、候補は三人だったんだ。お前は確かに実力有ったけど、実は『一年生』というのがネックになってた。同じような実力なら上級生優先にしようかと顧問が考えてた時に、毎日朝練に出ている真面目っぷりを主将だった小松谷が伝えて、それで決まったんだ」
「へえ」
(毎朝、先輩を見に来てた……なんて、とても言えないな)
将之は、今度ばかりは黙っていた。
すると知己が
「あ、そうだ。ちょっと待ってろ」
思い出したように、何かを取りに自室に戻った。
戻ってきた時には、その手にはハガキが一枚。
「ほら、これ」
ハガキには「結婚しました!」の文字。
あの頃より十歳年取った小松谷とその奥さんであろう女性が二人仲良く指輪をかざし、笑顔で写っている写真が付いていた。
「な。なんでもかんでも、お前は心配しすぎ。小松谷は、こうしてちゃんと女性と結婚したよ」
勝ち誇るように知己は笑ってみせた。
「そうかなぁ。でも、やっぱり必要以上にクロードさんと仲良くするのは、嫌なんだけど」
ハガキを眺めつつ将之がぼそぼそと言う。
「分かった。必要以上に仲良くしないようにする」
こうでも言わないと、いつまでも将之のジェラ期が収まりそうにない。
「本当ですか?」
「ああ」
(とはいえ、必要以上か以下かなんて、どういう基準で判断するんだろう?)
知己は少し首を捻った。
「良かった。あ、でも」
「まだ、何かあるのか?」
内心
(めんどくさいな、こいつ……)
と思いつつ、知己が言うと
「やっぱり心配だから、この写真のようにペアで左手薬指に指輪を付けませんか?」
小松谷の写真を指差して将之が提案した。
「ゆ、指輪?」
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