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知己は、笑顔でそう答えた。
それを聞き、少し着替えを手伝いたかった将之は
「ちっ」
と残念そうに、リビングに残って舌打ちした。
それを目の端で見て
(やっぱりスケベ親父だった)
と知己は思い直した。
3分後。
知己がよくカップラーメンで使う三分オイルタイマー(砂時計のオイル版)が落ち切るのを今か今かと待っていた将之は、全て落ちたのを確認して、いそいそと寝室に入っていった。
「じゃーん! どうだ?」
着こなしに自信満々。
ご機嫌に見せる知己に
「わあ、似合っています!」
お世辞ではなく、心からの賛辞を述べた。
「身長差が10センチはあるから、丈が少し長いかなとは思うけど、許容範囲だろ?」
そんな知己に答えず、
「ああ、和服姿の先輩……、懐かしい」
と将之は、思いを九年前に馳せていた。
きっかけは、確かに外見だったかもしれない。
女性ではないと分かっていても、どうしても目で追ってしまっていた。
朝練や放課後の練習を共にし、真面目に取り組む様子や後輩への面倒見の良さなどに惹かれた。
黒い浴衣が、知己が愛用していた黒い胴着に重なって、思わず将之は
「先輩、好きです」
と抱きついた。
「うわ、いきなりだな」
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