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そして、月曜日。
「やあ、後藤君」
「げっ! 平野先生」
東陽高校事務室で、知己は後藤と出会った。
知己が待ち伏せしていたので、当然と言えば当然の結果なのだが。
「奇遇ですね。こんな所で遭うなんて」
「まあ、高い代償は払ったからね」
「?」
後藤は意味が分からぬといった表情を一瞬浮かべたが、すぐに事務室の卿子を見つけて
「それじゃ、僕、仕事の途中なんで。あ、坪根さーん。教育委員会からの配布物をまたまた持ってきましたよー!」
と明るく声をかけた。
「こら。待て」
通り過ぎようとする後藤の背広の襟を、指先で知己が摘む。
「はい?」
猫のように捕まえられた後藤が、不思議そうに知己の方を振り返った。
「なんだその配布物は。それぽっちをわざわざ持ってきたのか? 郵便でいいだろう?」
「経費節減です」
きっぱりと断言する後藤に迷いはない。
「絶対に切手代の方が、君の出張旅費より安く済むと思うが?」
「それは平野先生の気のせいです」
どうしても事務室に入りたそうにする後藤に、
「デスクワーク……、貯まっているって?」
知己はトドメの一言を放った。
「……! どうしてそれを……?」
初めて後藤の顔色が変わる。
「だのに、仕事だ出張だと出歩き、更に仕事が雪だるま的に溜まりつつあるんだって?」
「あ、あの……!?」
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