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「ありがとうございます」
と軽く頭を下げた。
「あの人、大した用事でもないのにやってきて、ここに入り浸るんです。早く帰って欲しいけど、一応、委員会の人でしょ。粗相有ってはいけないとお茶を出したり、お話の相手をしたりしていたんです。早くて30分、長い時は1時間以上も。その間は、私、自分の仕事できなくって困っていたんです。平野先生が、上手に追い払ってくれて助かりました」
(後藤君め。なんて羨ましいことを……)
卿子との至福の時間をたびたび過ごしていたと聞き、今日の後藤撃退作戦がうまくいって良かったと知己は心から思う。
「あの人の話、誰にも言ってなかったのに……。樋口先生から聞いたんですか?」
樋口は、情報通だ。
言ってもないのに、色々な噂や話を知っていた。
卿子は、その樋口辺りから聞いて知己が助けに来たのだと思ったらしい。
「いや。樋口先生からじゃないけど……」
将之から聞いたとも言いたくなく、言葉を濁していると、ふと思い出した。
「あ、そうだ。卿子さ……じゃなかった、坪根さん」
「はい?」
「俺とクロードのことだけど……」
「ああ、イケメン同士の目の保養」
卿子から本音がぽろり。
「別に、特別仲良くしてなんかないですよ」
「え? 何の話ですか?」
きょとんとする卿子に、知己は説明した。
「俺とクロードが、やたらと喋っているって話。普通に職員同士の会話ですよ。樋口先生と話すのと同じ感じで、特に親しくしている訳じゃないです」
「ええ。それが、どうかしました?」
「え?」
「私もそう思いますけど?」
「けど?」
「樋口先生と平野先生のおしゃべりよりも、クロード先生と平野先生の方が、目の保養になるなって思ってて……。何かご迷惑でした? ミーハーに騒いだつもりはなかったんですが」
「……」
何か、手応えが違う。
そこで知己は
(後藤君めっ! さては卿子さんから聞いた話を、色々と脚色して将之に話したな?!)
と思い至った。
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