301人が本棚に入れています
本棚に追加
(話に尾びれ背びれどころか、胸びれ腹びれエラに尻びれまで付いている!)
さっき、少し大人げない言い方をしたかもしれないと悪びれていた気持ちも吹き飛び、後藤を追い払って正解だったと痛感する。
「ごめんなさい。平野先生を不愉快にさせました?」
卿子がすまなさそう言うのを
「卿……いえ、坪根さんは悪くないです。悪いのは、みんな、後藤君です」
そう言って出された麦茶を一気に飲み干すと、知己は理科室へと戻った。
「先輩。中位先輩」
「何? 後藤」
性懲りもなく、また出て行ったと思ったら、すぐに帰ってきた後藤に将之は呼び止められた。
昨日のこともある。
薄々、知己に何か言われたのだろうと将之は予測した。
「いいですよね。平野先生」
「?」
うっとりと語る後藤に、将之は不可解な表情を浮かべる。
「さっき東陽高校に行ったんですけど、そこで平野先生にばったり会っちゃって」
(ばったり……ね)
情報源の将之は、内心、苦笑いを浮かべる。
「そこで厳しいこといっぱい言われちゃったんですが、なんかもう、それが途中から快感になっちゃって」
「はあ?」
「あの綺麗な顔で思いっきり睨まれて、その上罵られると、ゾクゾクしちゃいます。もう、たまんないですよ。僕、病みつきになりそうで」
「後藤……」
「また、叱ってもらいたいなぁ。次は、いつ東陽に行こうかな?」
そう言って、性懲りもなくスマホでスケジュールを確認する後藤に
「後藤……。お前、しばらくデスクワーク。外出禁止」
と冷たく言い放つ将之だった。
-第8話余談 了ー
最初のコメントを投稿しよう!