第9話 猛暑が人を狂わす夏季補講

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第9話 猛暑が人を狂わす夏季補講

「また、コーヒー飲んでるのか?」  門脇が理科準備室に入りがてら、開口一番そう言った。 「びっくりした。急に声をかけるなよ」  振り向いて相手を確認して、知己が言う。  将之だったら、また私物がどうとかうるさい所だ。 「そんなにコーヒーばっか飲んでたら、体、黒くなっちゃわないか?」 「なるかよ」 「……アソコは多少黒い方が、男は箔が出ていいかもしれないが」 「何、言ってる?」 「個人的には、あんまり黒くなってほしくない」 「だから、何を言ってるんだ?」  知己が怒りを顕わにしたので、門脇はそれ以上言うのをやめた。 「先生。これ、やる」  門脇は、鞄から500mlのペットボトルを知己に投げて渡した。 「何? これ」 「お茶。黒は黒でも、健康を意識した黒ウーロン茶」 「なんでそんなもん、お前が持っているんだよ」 「体脂肪が気になる年頃だろ? 三十路間近な訳だし」 「ほっとけ」 「さっき、あんまり暑いんで自販機で自分の分買ったついでに、先生の分も買ったんだ」 「気が利くな。いくらだ?」 「いらねーよ。夏休みも補講で、先生ずっと学校に来ているだろ? 大変そうだから差し入れ」 「それじゃ、もらえない」  門脇にとって友達への差し入れ感覚だろうが、知己にはそうはいかない。 「堅いな。代金もらったら、受け取ってくれる?」 「もちろんありがたく、受け取る」  真夏の補講。  知己は受験教科担当と言うことで、駆り出されていた。  授業を行えば、喉も渇く。  今日の全ての夏期講習を終わらせ、知己はコーヒーを淹れた。  でも熱いコーヒーよりも、冷たいお茶。  正直、門脇の差し入れはありがたかった。  代金を支払うと、知己は喜んで門脇の差し入れを飲み干した。
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