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「門脇くん、そろそろ下校時刻なんだけど……」
迷惑そうな声と共に、司書教諭に揺り動かされて門脇は目を覚ました。
門脇は、補講と昼食を済ませた後、図書室に来ていたことを思い出す。
門脇の成績なら、特に受験勉強の必要性も感じないが、夏休みの宿題はきっちり出ているので、家に帰らずそれを片付ける為に図書室に寄った。
無論、補講終わってすぐに理科室に寄ったが、
「菊池が居ないから、お前だけはダメ」
と素気なく知己に門前払いを喰らった。
菊池は、中間考査での成績が尾を引いて単位が危ないらしく、午後も強制補講に出ている。
門脇には全く縁のない話だが、強制補講とは東陽高校の赤点の生徒に対する救済措置で、強制補講に出て再試を受ければ、よほど酷い点数を取らない限り単位が下りる。
それ故に菊池は必死だ。
門脇はどうやら空調効いた図書室で、うっかり眠ってしまったらしい。
宿題のノートには、解読不能なミミズののたくったような字が書かれていた。
自習や読書に励む図書室で寝るなんてとんでもない話だが、誰も門脇を起こす勇気がない。
下手に起こして、その逆鱗に触れるのは嫌なのだ。
だが、迫った下校時刻に早く帰りたい司書教諭は、勇気を絞り出して門脇を起こした。
もちろん、その後に門脇に色々と言われるのも面倒なので、声をかけた後は、そそくさとカウンターに逃げ帰っていたが。
(あ、やべ……)
昨日、菊池と見た媚薬ものAVのお陰で、門脇の股間は臨戦態勢に入っていた。
(そうだった。興味はあったんだけど、媚薬なんてどこで手に入れるんだよって考えたんだっけ。18歳になったばかりの俺に、妙な店に行く勇気なんざないし、媚薬を通販で頼むのも何だかな……って、思いとどまったんだった)
辺りを見回すと、他の生徒の姿は既にない。
皆、帰ってしまったようだ。
図書室には、カウンターの中の司書教諭と門脇だけだった。
門脇は、安眠妨げた司書教諭に文句の一つも言わずに、早々に図書室を立ち去り、トイレに駆け込むことになった。
-第9話・了ー
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