第10話 混戦を招いた運命の体育祭

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「クラス委員の会合で、遅くなっちまったな……」  一人ぶつぶつと文句を言いつつ、門脇は講堂へ急いだ。  講堂は、赤組応援団の練習場所である。  今年は白組応援団が体育館を練習場に使い、赤組はやや体育館よりは小さいもののそれなりの大きさがある講堂を使用するようになっていた。  体育祭当日までの、お互いの応援演技種目は秘密だ。 「遅くなって、すまんー……って、先生?」 「おう、門脇。委員会の仕事、ご苦労さん」 「何やってんの?」  男子応援団員が赤組の応援衣装である袴や上衣の着物を手に悪戦苦闘している。  その集団の中で一人、袴姿で凛と立つ知己が居た。 「こいつらが応援団の衣装の着方が分からないと聞きに来たんでな、教えていた所だ」 「先生、自分で着られるの?」 「こう見えても、昔、剣道部だったんだ。このくらい簡単」  知己は、すまして答える。 (へえ、先生。剣道部だったんだ……。そういやぁ、袴姿も似合っているな)  門脇が羨望のまなざしで、涼し気なたたずまいの知己を見つめる。 「おい、菊池。着物は右前だっつーの。それじゃ死人の着物だぞ」  知己の方は着方を指導するのに忙しそうだ。  それに、どこか嬉しそうでもある。     
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