第10話 混戦を招いた運命の体育祭

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 真っ赤になって戸惑う知己に、門脇が追い打ちをかける。 「あいつの舌を強引にねじ込まれて、先生の口の中ぐっちゃぐちゃに掻き回されるんだぞ。先生の舌だって舐められるわ吸い付かれるわ。逃げようと思っても絡め取られて、腰が砕けそうになるまでやられるに決まっている。しかも、あいつの方が身長高いだろ? どんなに嫌がってもがっちり顔を固定されて、真上からあいつにされ放題。喉奥にトロトロに唾液流し込まれ、それを呑み込むまで解放されない強烈なキスされるけど、それでもいいのか?」  ついでに、目眩も覚える。 (うっかり俺の先生とのやりたいキス妄想を語ってしまったが……。やっべ、菊池がドン引いてら)  身長以外は全て門脇の妄想を語ったが、効果はてきめんだった。 「……じゃ、お前は違うんだな?」 「は?」 「お前は、ほっぺにちゅうくらいで終わりだな?!」 「え?」  不意の問いに、門脇は答えに窮した。  気のせいだろうか。知己の目が座っているような気がする。 「いや、俺だって本当はそういうキスしたいよ……」  ボソボソ付け足したが、もはや知己の耳には届いていなかった。 「菊池ぃ!」  いつになく厳しい知己の表情に釣られ 「はい!」  門脇の妄想キス発言に引いてた菊池が我に返り、大きく返事をした。 「今すぐ、服を脱げ!」 「はあ?!」  追いはぎに遭った旅人のように、咄嗟に菊池が両手を交差して衣装を奪われないように服を握りしめた。 「なんで菊池? 俺、先生に言われたら、なんぼでも脱ぐのに?」 「応援団長の門脇が脱いだって、仕方ないだろ?!」  門脇に言い返しつつ、知己は、逃げ出しそうになった菊池の襟首をむんずと掴んで捕まえた。 「え? どういう意味?」 「こういうのは形から入るもんだ! というか、この格好じゃ恥ずかしくてできないだろ?! せめて衣装でも着なくちゃ」 「あ、服を交換って意味……?」  何故か残念そうな門脇に、知己は 「そこの体育倉庫裏で着替える。門脇は立ち塞がって、他の人に見られないよう目隠しになってくれ」  時間がないので、焦って指示を出す。 「先生、着替え手伝おうか?」  運動場の端、赤組応援席近くの体育倉庫裏に菊池を連れ込む知己に声をかけるが 「なんか言ったか?」  既に襷まで身につけた知己が、そこに居た。 (うぉ、かっこいい……!)  知己のあまりの勇ましさに門脇が言葉を失っていると、倉庫裏では、知己のジャージを羽織った菊池が 「うう。瞬殺で剥かれた……」  と涙ぐんでいた。 (くっそ。俺が剥かれたい……)  ほんの少し門脇は思ったが、 「門脇! これで負けたら承知しないからな!」  いつもとは別人のように、きびきびと動く知己に声をかけられ、煩悩も吹っ飛んだ。  知己はそのまま、颯爽と指揮台下に設置された和太鼓の所へと向かった。  相変わらずの華麗な袴の裾捌きに、門脇は見とれて知己の後姿を見送った。
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