第10話 混戦を招いた運命の体育祭

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「次は、赤組の応援です」  アナウンスの声に、門脇ははっと我に返る。  そのアナウンスとほぼ同時に、知己が本部席近くの中央テント指揮台傍の和太鼓の位置に付いた。 「……っ」  本部席や来賓用テントから、感嘆の声が漏れる。 (何、これ。マジ……?)  将之は、喉までせり上がってくる歓喜の叫びを必死にやり過ごす。  だが、平静を装うにはあまりな状況。  和太鼓の前の知己は、将之が夢にまで見た和装。  その上、襷を掛け、長い赤い鉢巻きをなびかせて、その姿は神々しくさえ見えた。  将之でなくとも、本部席にいた来賓や教師。応援席の生徒達も、まさかの知己の勇姿に目を奪われ、ざわつく運動場が静まりかえった。 (うああああああ! 先輩は、僕を萌え殺しにかかっている……)  思わず息を止めた。  運動会のパンフレットで口元を覆い、叫び出すともにやけそうになるとも分からない顔を隠す。制御しきれない感情を、必死にやり過ごしていた。  平静を装って来賓用パイプ椅子に座っているが、心の中では運動場を萌え転がっているような気分だった。  知己が位置に付くのを確認した門脇は、 「赤組応援団! 押して行くぞ!」  応援団に檄を飛ばした。  
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