第10話 混戦を招いた運命の体育祭

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「しまった。僕としたことが……」  あまりの出来事にスマホで動画撮ることさえ忘れ、知己に釘付けになっていた将之が呟いた。 (感動で人は死ねるんだなぁ……)  などと、いまだに一人で勝手に盛り上がっている。  無事に塔を終え、赤組応援団一同が整然と並ぶ。  並び終わったところで門脇が 「赤組、退場ー!」  と号令をかけると、知己が速いテンポで和太鼓を叩き、赤組応援団は勇ましく駆けて退場した。  運動場は、勇壮な演技の余韻に包まれていた。  赤組が退場門を抜けた所で、和太鼓を夢中で打っていた知己は急に我に返った。 「は……、恥ずかしい……」  和太鼓の撤収と共に、急いで引っ込もうとする。 「先輩が隠したがっていたのは、これだったんですね?」  先ほどまでの勇姿はどこへやら。  まるでこっそりと逃げるように去ろうとする知己の腕を掴み、将之が訊いた。 「うるさいな」  赤い顔をして、知己はその手を振り解いた。 「早く着替えたいんだ。どけよ」  照れ隠しに素っ気なく言う。 「答えなくてもいいですよ。家に帰っていっぱい聞いたらいいんですから」  将之は嫌な笑顔で言うと知己を離した。 「ちっ」  また家で色々と聞かれるのかと思うとうんざりするが、素に戻った今は一刻も早くこの衣装を脱ぎたい。  きっと体育倉庫裏で、菊池が寂しげに待っているに違いない。  体育倉庫の裏に行くと、知己のジャージは門脇が持ち、菊池は体操服姿で待っていた。 「なんだ? 俺の預けたジャージ、着ていなかったのか?」     
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