第10話・余談 体育祭plus 1

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第10話・余談 体育祭plus 1

 杞憂のもとの応援合戦も無事終わり、知己は樋口に用があって本部テントに寄った。 「あれ? 将之、帰るのか?」  あれほど「最後まで見る」と言い張っていた将之が、帰り支度をしている。 「なんだか胸がいっぱいになりましたから」 「?」 「このままここに居ては、さっきの余韻でなんだか訳の分からないことを口走りそうになるので」  平静を装おうとしているのだが、口をついて出る言葉は意味不明だし、口元をシメようとしても自然とにやけてしまう。  そんな微妙な笑顔炸裂の将之に (意味が分からん……)  その原因を作った知己は、首を捻るだけだった。 「他に隠し事があったって、もういいんです」 「もう、ねえよ。ああいう形になったけど、あれが最大にして唯一のおまえに知られたくなかったこと」  即答した知己を無視し 「家に帰ったら、先輩自身に聞けばいいんだし」 「だから、もう無いってば」 「今日は、遅いんでしょ?」 (相変わらず、人の話を聞かないな)  呆れつつも 「打ち上げがあるから、な」 「それが終わって、家に帰れば時間はあるし。じっくりと先輩の体に聞きますよ」 「卑猥なこと、言うな」 「へえ、卑猥でした?」  将之は辺りを見渡した。 「大丈夫ですよ。来賓のほとんどは帰っちゃっているし」  将之の言うとおりだった。  いつもはもう少し来賓が残っているのだが、今年は天気に恵まれすぎた所為か。例年は残るお年寄り連中も、早々に撤収していた。  テントに残っている来賓は、もはや将之だけである。 「公私混同はダメなんだろ? けじめ付けろって自分で言ってたじゃないか」  すげなく言う知己に 「ふうん。随分と強気な発言ですね。それってやっぱり僕に見られたくない厄介事は、もうこの後にはないってことか」  確信強めた将之は 「無駄なことは嫌いなので、帰りますよ。『平野先生』」  嫌みを付け足して帰って行った。
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