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同じく荒い息の将之が声をかける。
返事はない。
鏡には項垂れた知己の頭頂部だけが写り、その表情は見えない。
後、少し。知己より少し遅れて達しそうだったのだが、あまりの知己の乱れっぷりに一度動きを止め、将之は、続きをしてもいいか考えあぐねた。
「……っ……」
荒い息の中、知己が吐き出すように何か言った。それは、まだ呼吸が整わないので、うまく言葉にならなかった。
「何?」
聞き返す将之に
「……向き……っ」
「え?」
顔を上げ、怒りの表情たたえた知己が言う。
「向き!」
将之がいぶしかげに思っていると、鏡を通して知己が将之を睨み付けながら言った。
「……向き、変えろっ……! このままなら、最後まで、……させねー!」
(あ、怒ってる……。しかも、本気で)
二カ所どころか三カ所も攻めた所為だろう。
今回ばかりはムキになって責め立てた将之に、珍しく罪悪感が沸いた。
「その正常位推奨委員会みたいな強情な態度、なんとかなりませんか?」
それでも一言いっておかないと済まないのは、将之の性格であるが。
「うるさいっ! ちゃんと……しないと、許さない!」
怒る知己を宥めるように、そうっと体を抱え上げ、大理石の天板を支えに体を反転させた。
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