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第13話余談 文化祭その後・1
久しぶりの次男の帰省だというのに
「あんたが家に帰ってくる時は、大抵腑抜けになって帰ってくるのね」
母は、かなり鬱陶しがっていた。
「お盆の時は、そうでもなかっただろ?」
「そう? でも、この間も突然帰ってきたときは、今みたいな病人のような顔をしてたわよ」
今年の1月の話か。
「なあに? 中位君とまた喧嘩したの?」
一年に二度もそんなことがあれば「また」と言われても仕方ない。
「まあ、そんな感じ。今回は、俺が全面的に悪いんだけど」
ぼそぼそと告げると
「高校時代の仲良し後輩に会えたのはいいけど、意外とそりが合わないのね。こう、ちょくちょく帰ってこられたんじゃ、あんたの部屋を物置にできないじゃない」
母は息子の交友関係よりも、部屋の行く末の方が気になるらしい。
(ということは、俺の部屋はまだ無事か)
兄の部屋が物置になったのは、兄が出ていって数ヶ月経ってのことである。じわじわと物が増えて行き、いつのまにか物置と化していた。
母は、まだ物置が欲しいらしい。
「早く謝って、仲直りしなさいよ」
「……」
謝ったのだがーーー。
だが、関係はちっとも改善しなかった。
ああなった理由も経緯もきちんと話すことができなかった。
話すも何も、全く取り合ってもらえなかったのに、この先、仲直りなんてできるのだろうか。
未だ冴えない表情の次男をそれ以上相手にすることなく、母は
「今夜は、何、作ろうかな?」
と、買い物に出て行ってしまった。
ぽつんと残された知己は、二階の自室に行き、荷物を置いた。
「距離を置こうって言われたから……」
メールも電話もダメだろう。
一番いいのは直接会って話をすることだと思うが、果たして会ってもらえるのだろうか。
今の段階では、とてもそうは思えない。
(時間が経ったら……)
将之が少し落ち着いたら、話を聞いてくれるのではないか?
(そうだといいな……)
でも、
「もう無理です」
と言われたのを思い出した。
(それって……)
気が動転していて、気付かなかった。
今は会話も「無理」ではなく、自分たちの関係維持していくことを「無理」と言われたのなら
(それなら、もう会うことさえできない。話す機会なんて、とても……)
そう思うと知己は、病人みたいな顔をますます青くするのだった。
ー了ー
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