第4話 門脇推しAVにまつわる話・1

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 知己は持っていたDVDを返そうと急ぎ声をかけたが、玄関のドアはそのままバタンと閉まってしまった。 「これ……、どうしよう」  返しそびれたDVDを知己が呆然と見つめた。 「心配しなくても、月曜に返したらいいでしょ。僕から渡しておきます」  やはり不機嫌な将之がやっと重い腰を上げて知己の傍に行くと、知己の手から問題のDVDを取った。 「それにしてもあの堅そうな家永さんが、これを観るとはね……」  冷めた目でパッケージを見つめる。 「別に観たっていいだろ。家永だって男なんだし。でも、多分、言い訳じゃなくて本当だ。ただ持って帰ってしまっただけだと思う。あいつは観ないよ」 「じゃあ、なんでこれが部屋に有るんです? 学生に返す予定なら、鞄の中に入れたままにしておけばいいものを。どう考えても観るつもりがあったとしか思えないんだけど」  淫らなパッケージは、例の知己似の女優が誘うように微笑んでいる。 (あの人がこのパッケージを見て、中身を見ない筈なんてない)  将之は苛立たしく思った。  だが、知己は相変わらず 「きっとそれは、鞄の中身を出してきたんじゃないの?」  と、またも家永寄りな意見を出す。  それがますます将之を苛立たせるというのに。 「それって先輩に、こんなのを持っているって思われたくなかったからですね」     
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