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「先輩と家永さんが会うのを、ものっすごく我慢しているんですから。ね。だから、今日は人間抱き枕をさせてください」
(ああ、もう……!)
「……」
知己は無言で将之の膝に座った。
知己の耳元に将之が顔を寄せ
「変な匂い、しない。……良かった」
心底安心したように呟く。
その声と吐息に、知己の背筋が震え、頬がかっと赤くなるのが自分でも分かった。
(あ、こいつの声……俺、好きだったのを忘れてた)
一緒に住み始めて一年以上経つ。
最近は聞き慣れてすっかり忘れていたが、知己は将之の甘い低い声が好きだった。こうして近くで聞くと、改めてそれを思い出す。
居心地悪そうにもぞもぞと身じろぎすると
「どうかしましたか?」
将之が覗き込む。
こんなに近くに居ると、そんな事を考えているのさえばれるような気になり、
「何でもない」
知己はごまかすように画面に視線を移した。
だが、赤くなった頬はすぐには戻らない。
それを見て満足そうに微笑んだ将之を、そっぽむいた知己は知ることができなかった。
「あれ? 途中から?」
「当たり前です。まだ序盤だったんですが、先輩が来るまでは後藤と観てたんだから」
だから、帰ってきた時に後藤が妙に慌てていたんだな……と理解した。
「しかし……後藤君とこれを……」
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