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家永はゲイという訳ではなかった。
それこそ十代には女性に欲情していたし、それなりにアダルト関係のものを見聞きしていた。
ただ、たまたま好きになった相手が知己(男)だったのだ。
知己は家永の事を親友として、心底信頼し、信用し、遠慮なく甘えてくる。
それが、心許してくれている証拠と思え、家永は嬉しくもあった。
が、苦しくもあった。
(親友と思ってくれている……)
それが重く家永にのし掛かっていた。
この信頼を裏切るのが、怖い。
自分の欲望をぶつけて、知己が永遠に目の前から去ってしまうのが怖い。
時々、家永の部屋にやってきては夕飯を食べたり酒を飲んだり、果ては泊まって帰るなど、大学生の頃はざらだった。
嬉しい反面、地獄のような苦しみも味わった。
(いわゆるこれが「蛇の生殺し」ってヤツか?)
隣ですーすーと穏やかな寝息立てる知己を見て、思う。
家永の下宿はロフト付きの1LDK。
まさに学生の為のコーポである。
当然、客用の布団などなく、布団は家永が通常使うシングルベッドの一組しかない。
二人で寝るには狭いベッドに、きゅっと身を寄せ眠った事も数え切れないほどある。
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