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このまま無理矢理知己と身体を合わせたら、どれだけ楽になれるかと思ったこともある。
時には、その凶暴な欲望に負けそうになって、眠る知己をうっかり抱きしめたこともある。
だが、化学記号配列を順を追って思い出して唱え、なんとか理性を保った。
卒業してからも関係はそのまま。
時折、会って喋ってお互い癒されていた。
(俺はずっと平野の「親友」でいい。こいつも、きっといつか「卿子さん」とやらと普通に恋愛して、普通に結婚していくんだろう。男とそういう関係を持った……なんて、こいつの人生には要らないものだ)
と自分を無理やり納得させていた。
墓場までこの思いを持っていくつもりでいた。
中位将之が現れるまでは。
その日は、大学の講義中に学生がなにやら紙包みを受け渡ししているのが見えた。
袋に包まれていたのでそれが何かは分からなかったが、それが何であっても講義中に不謹慎だと注意し、没収した。
学生達はひどく慌てたが
「講義中に是が非でもすることではない、と分かるな? 講義前でも後でも、休み時間がある。その時に渡せばいいことだろう」
と学生達の浅はかな考えを一蹴。
そして反省文を書いてきたら返す……と約束し、一旦没収という形になった。
まさか中身がそれとは知らずに。
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