第5話 春の日に理科室へ訪れた客

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(あいつら……)  一体、どうしてくれようかとしばらく考えていた知己に 「平野先生?」  とクロードが声をかけた。 「あ、はい」  かなりの時間、知己は考えていたようだ。  クロードはそんな知己を黙って眺めていた。  クロードを無視した訳ではないが、申し訳なく思い 「すみません。考え事して……」  と謝った。 「いえ……」  それ以上、特に何も言わない。  尚も、ただ見つめるだけのクロードに 「あの……? クロード先生?」  不思議に思い、声をかける。 「先生。すみませんが、私の事は『クロード』と呼んでもらえませんか? その方が慣れているので」 「はあ」 (そういや、映画とかでも外国の人は呼び捨てが多いな)  その方がしっくり来るのだろうと知己は思った。 「私も『知己』と呼びたい」 「は?」  突然の申し出に驚いた。 「あなたの面影は母に似ていて……」  とクロードがその長い睫を伏せる。 (仕事だから仕方ないとはいえ、外国に来て、寂しい思いをしているのだろう)  郷愁に駆られてか。  驚きはしたものの、こんな寂しげなクロード相手に拒否の言葉は出てこなかった。 「いいですよ。ええっと……クロード……」     
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