第5話余談 それは挨拶

2/3

301人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ
「い、いや、いい。ごめん。今の聞かなかったことにしてくれ」  と慌てて自分の言葉を撤回。  だが、時すでに遅く、将之がニヤリと嫌な笑顔を見せている。 「そんなことする訳ないでしょ? 先輩からの貴重なキスのおねだり、聞かなかったことになんてできませんよ」 「わー! そんな事、言うな! 恥ずかしい!」 (クロードとの違いを知りたくて、試しに将之にしてもらおうと思っただけなのに、「キスのおねだり」だ?! 俺はそういうこと言ったことになるのか?!)  自分の言った意味を理解し、知己は慌てた。 「キスしてくれって言ったのは、先輩じゃないですか?」  ますます嬉しそうに笑う将之に 「笑うなっ!」  としか言えない。  そんな時だ。  将之が知己の首筋に手をかけ、抱きしめられるように肩に引き寄せられた。  そこから、将之の顔がゆっくりと降りてくる。 (え……?)  頬にほんの僅か、唇が触れ「ちゅっ」と軽い音を立てて、過ぎ去った。 (ううううううううううううううううううううううううう、うわー! うわー! うわー!)  知己の顔がみるみる真っ赤になっていくのが分かる。  湯気でも出そうな勢いだ。 (茹でタコ……)  正面から見据えて、将之は思った。     
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

301人が本棚に入れています
本棚に追加