第6話 やんごとなき菊池の成績事情

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第6話 やんごとなき菊池の成績事情

 その日の理科室は、不穏な空気に包まれていた。  梅雨が近い所為か、雲が厚い。  曇天の放課後。  夏服に衣替えしたものの、その日は肌寒さがあった。  その天気と同じくらい、菊池の顔色は悪い。  真っ暗だ。 「せんせー、ここも分からん……」  菊池が唸る。 「分かりません、だろ?」 「……分かりません」  渋々言い直す菊池の前には、理科室の実験用の黒々とした机を挟んで知己が居た。  そこに 「あー! なんだよ、菊池。先に来てやがったのかよ。俺、お前を捜してたのに……!」  門脇が飛び込んでくる。  抜け駆けしやがって、とでも言いそうな勢いだ。 「……うう、門脇に声かける暇もなく担任に拉致されて、連れて来られたんだ。そんなに睨むなよ」  菊池にいつもの元気はない。  無理矢理、知己に連れて来られたというのは、本当らしい。 「文句を言うな」  知己は一蹴した。 「仮にもほぼ毎日理科室に通っておきながら、化学で赤点取りやがって……。あの点数を見た時の俺のショックはなかったぞ」 「確かに理科室に通ってはいますが、勉強はしてません……」 「偉そうに言うな」  ややいじけた様子の菊池に、知己は苛立たしげだ。 「はあ? 菊池、化学、赤点なの?」     
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