295人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ
序 放課後の理科室の攻防
ほんのりと春の気配滲ませる2月の放課後。
東陽高校理科教師・平野知己は、いつものように理科室にこもり、翌日の授業準備を進めて
いた。
いつもと違うのは、一年近くもその作業を手伝っていた学級委員の門脇が居ないこと。
(一人だと、作業あんまり進まねえな……)
孤独に、だが着々と準備を整えていた。
(思えば、門脇は手際もいいし、足りない道具に気付ける気の利く奴でもあったし。他の先生の前じゃ無愛想だったあいつも、俺の前ではよく話してたんで理科室は賑やかだったな)
以前のようにのんびりとマイペースで仕事ができるようになったとはいえ、正直、一抹の寂しさがあった。
(なんだかんだで生徒に懐かれてるってのは、俺も嬉しかったんだよな)
今更ながら門脇の存在を知らされるのだが
(まあ、もう、二度と来るとは思えないけど)
と思う。
不意に、理科室の入り口のドアがカラリと軽い音を立てて開いた。
放課後の特別教室棟の来訪者は珍しい。
知己はドアの方向を振り向いて、驚いた。
「……か、門脇……」
「……」
妙な沈黙が流れる。
ゆっくりと門脇が
「……先生……」
と口を開いた。
嫌いなものは大人。
最初のコメントを投稿しよう!