序 放課後の理科室の攻防

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序 放課後の理科室の攻防

 ほんのりと春の気配滲ませる2月の放課後。  東陽高校理科教師・平野知己は、いつものように理科室にこもり、翌日の授業準備を進めて いた。  いつもと違うのは、一年近くもその作業を手伝っていた学級委員の門脇が居ないこと。 (一人だと、作業あんまり進まねえな……)  孤独に、だが着々と準備を整えていた。 (思えば、門脇は手際もいいし、足りない道具に気付ける気の利く奴でもあったし。他の先生の前じゃ無愛想だったあいつも、俺の前ではよく話してたんで理科室は賑やかだったな)  以前のようにのんびりとマイペースで仕事ができるようになったとはいえ、正直、一抹の寂しさがあった。 (なんだかんだで生徒に懐かれてるってのは、俺も嬉しかったんだよな)  今更ながら門脇の存在を知らされるのだが (まあ、もう、二度と来るとは思えないけど)  と思う。  不意に、理科室の入り口のドアがカラリと軽い音を立てて開いた。  放課後の特別教室棟の来訪者は珍しい。  知己はドアの方向を振り向いて、驚いた。 「……か、門脇……」 「……」  妙な沈黙が流れる。  ゆっくりと門脇が 「……先生……」  と口を開いた。  嫌いなものは大人。     
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