ハロウィンの魔法

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「……おおかみ、おとこ……?」  なぜか待ち構えていたおばさま達に押し付けられたのは、事前の話には一切なかった仮装グッズで。  せっかく若い子が来るなら、と用意してくれたらしいのだが、これがまた何というか、微妙、だった。  狼男として宙に用意されていたのは猫耳のカチューシャと、もふもふ大きく動き辛そうな猫の手。  さすがに尻尾はなかったが、これではどこからどう見ても「黒猫」の仮装だ。狼男にはなれそうもない。 「……大樹たちは、なにするんだろ」  諦めのため息とともに透明の包みを開けながら、宙は現実逃避をするようにそう、ぽつりと呟く。  代理として町内会長に呼ばれている大樹たちがどんな仮装をするのか、宙はまだ知らない。せっかくの機会だし、狼男(これ)よりは本格的だといいけど……。  彼らの無事を願う気持ちにささやかな私欲を混ぜながら、宙はもそもそ、猫の手を左手にはめてみる。  髪色と同じ猫耳はうまく馴染む可能性もあるだろうけれど、この大きな手だけは、違和感しかない。  完全に外れくじを引いた気分で息を吐いた宙は、一度自由にした手でそっと、カチューシャを手に取る。頭に乗っけてみれば、なるほど。髪色に溶けて、なんとなく似合っている気がしないでも、ない。 ──まあ、外れくじには違いないんだけど。  改めて猫の手をはめ、狼男として完成した姿をちらりと鏡で覗いてみる。うん。やっぱりただの猫だ。  何とも言えず肩を落とし、とりあえず大樹たちのところへと身を翻した宙の視線の先で、扉が開いた。
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