泪の代償

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* * *  漫画で見る高校生活ほど、リアルは自由じゃない。  各クラス委員が集まる委員会に駆り出された大樹を1人待つ宙は、見飽きた野球部から顔を上げ、ふらりと教室を出た。  通い始めてから2年目ともなれば、小学校や中学とは段違いに広い校舎にも見慣れてくる。  最高学年が28回生というわりにはヒビの目立つ壁を撫でながら歩く宙に、目的地はない。ただなんとなく、教室でじっと座っていることに飽きて、探索する気になっただけだった。 ──屋上とか、行けたらいいのに。  乳白色の壁をなぞるように視線を上げても、見えるのは3年の教室が並ぶ4階の床だけ。宙から見れば天井にあたるそこには、誰がどうやってつけたのか、謎の手形が付いていた。  一種不気味に思えるそれを見上げながら、なんとなく追いかけて歩いていた宙は、 「あ、寝癖」 「ッ……!」  今朝と似たようなセリフと走った痛みに、びくっと肩をしならせた。伸び始めている襟足を引っ掴む手を振りほどき、くっくっと笑う声に涙の滲む目で振り向けば、案の定、にやけた顔の大地が立っていた。
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