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振り向いた目が、じっと、冬の重たい空のような静けさを持って宙を見る。いつもの揶揄する色のないそれに、宙は戸惑いながらも小首を傾げた。
ふっと、伏せるように瞬きをした大地の目元が和らぐ。
「……変な顔」
「うぇっ!?」
表情が柔らかくなったことに安堵したのも束の間。ぶにっと鼻を摘まれた宙は、安心を返せとばかりに眉を吊り上げた。けらけらと楽しそうに笑う大地の手が、あっさり頬へと移る。
「ほんっと、子供みたいに柔らかいな。なんで?」
「知らない」
「なに拗ねてんの?」
「拗ねてな、いひゃい! ひっひゃるな……っ」
ぶにぶに挟んだかと思えば、摘むように引っ張られて涙が滲む。なにが楽しくて毎回同じことをするのか知らないが、いい加減、涙が出るまで続けるのはやめて欲しい。
ううっと唸るように抗議する宙の気持ちが伝わったのか、大地がそっと手を離す。潜むようにヒリつく頬を撫でながら大地を見上げた宙は、ぶつかった瞳の、痛みを孕む目に思わず息をのんだ。
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