泪の代償

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「? どうしたの、宙?」 「っ、や。なんでもない!」 「……そう? なら、俺たちも帰ろっか」 「う、うん!」  まるでさっきの陰などなかったかのように、大樹が柔らかく笑う。それがあまりに普段通りで、宙はなんとなく、嫌な予感を覚えた。  なにがどうとか、どこがどうなどと言えるわけではない。ただなんとなく、雰囲気が違う。温和な大樹らしくない、硬く強張った空気が漂っている気がする。  虫の知らせとでも言うよなその違和感に首を傾げていた宙は、不意に立ち止まり、振り向いた大樹の目に確信した。 「帰り、少し寄り道してもいいかな」  凪いだ海みたいに穏やかで、だけど据わった目が、まっすぐに宙を射抜く。 「宙に、話したいことがあるんだ」 「……うん。大丈夫だよ」  よかったと、いつもより不恰好に大樹が笑う。宙は彼のその顔を極力見ないよう、小走りで隣に並んだ。普段なら少し悔しくなる身長差も、今日、この時ばかりは有難く思える。  気を遣って、他愛ない話を振ってくれる大樹に、出来る限りいつも通りでいることが、宙に出来る唯一だった。
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