泪の代償

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「ごめんね。無理言って」  いつもより10分ほど遅い帰り道に、2人分の影が長く伸びる。幼い頃によく遊びにきた公園に立ち寄った彼らは、木製の古いベンチに腰を下ろした。 「ん、大丈夫」  幼い頃は大きく見えた砂場は思ったよりも狭く、誰かの忘れ物だろう赤いスコップが嫌に目を引く。逆立ちが出来ないと揶揄されて泣きながら練習した鉄棒も記憶よりうんと低くて、赤と青、それから黄色の三色で構成されていたジャングルジムなんて、塗装が剥げてしまって色も分からない。 「それで? 話って、なに」  宙は腰掛けたベンチのざらつく表面を撫でながら、言葉を躊躇う大樹を促した。  3人掛けのベンチで真ん中を占める彼の鞄が、物理的にも精神的にも距離を置かれていることを示すように思えるのは、どうにも拭えない嫌な予感のせいなんだろうか。
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