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「……うん、あのね」
ザリッ、と。大樹のローファーが荒く砂を削る。何かを引きずった跡のようなその線は、再度大樹が足を動かした拍子に消えてしまった。
「彼女が、出来たんだ」
例えるなら、一瞬で命を奪われるような、そんな衝撃。
ヒュッと音を立てた喉に流れる空気がそこに詰まって、息が止まり、目の前が真っ白になる。
「さっきの、委員会の後に声をかけられて」
「……さ、っき……」
「うん。宙が待ってるの知ってたのに、ごめんね」
膝の上で組み合わせた両の指を落ち着きなく絡ませながら、大樹が悪いことのように謝る。
気にしないで。おめでとう。言うべき言葉は決まっているのに、宙は、どうしても音に出来なかった。
委員会が長引いていると言ったときに怪訝な顔をしていた大地はきっと、あの時点で委員会が終わっていたことを知っていたのだろうと。全く関係のないことを考えて、納得して、キャパオーバーしそうな思考を無理やりに冷やす。
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