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それから10分もしないうちに雨が降り始めて、誰もいない家に駆け込んだ宙の頬を、雨とは違う雫が伝い落ちていく。リビングでは落ち着かないと部屋に飛び込んだ宙は、閉じた扉に背を預け、そのままずるずると崩れ落ちた。
痛くて、熱くて、死にそうなほどに苦しい。
立てた膝を抱える腕に、ぽたりと涙が落ちる。拭う意味もないほどのそれを、宙は声を殺して零し続けた。
好意を伝える勇気はなかった。今の関係が壊れるくらいなら、このままでも充分だろうと、言い訳を続けてきた。
だからきっと、これは勇気のない宙自身が招いた結末だ。
「……、」
ひくっと幼子みたいにしゃくりあげながら、宙が涙に濡れた目をあげる。
水色に近い薄緑のカーテンの向こう側。大樹が帰っていった家の一部屋に、誰ともつかない、人影が映った。
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