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──……声、出しちゃダメだ。
ぽろぽろ溢れる涙で湿る唇に、宙がギリッと歯を立てる。
大声で泣き喚いてしまいそうなほどに叫ぶ心は、このままここで、殺してしまおう。今更告白したところで、大樹を困らせる以外の結末はない。それならばいっそ、ここで殺してしまった方が、ずっといい。
深く息を吐いた宙が、水を掬うように手のひらを丸める。なにもないそこに、瞬きで落ちた涙がひと雫溢れた。
──……好き。大好きだよ、大樹。
ぱたり。涙が落ちる。
「……、大樹」
毎日少しだけ。特別な想いを込めて呼んでいた名前を、なにもない手のひらに落として、蓋をする。
宙は、行き場を亡くした気持ちと一緒に、大切なその音を捨てた。
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