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「、あ」
伏目がちに現れた大地の視線が、声につられたようにちらりと上がる。冬の空気みたく澄んだ視線が宙を捉えるなり、珍しくぎょっと、驚き一色に染まった。
「……お前、なに。それ」
「お、狼男……らしい、です」
「はぁ?」
訝しむように眉根を寄せ、上から下までじっくりと眺める大地の背後で、ぱたりと扉が閉まってしまう。
鋭い視線に晒されていることもあって、宙は大地と2人きりという状況に知らず、体を強張らせた。
「ビクビクすんな。鬱陶しい」
「うっと……、し、仕方ないだろ」
緊張してしまうんだからと、宙は声にならない声で小さく呟き、不満げに唇をツンと尖らせる。
宙は、幼い頃から大地のことが苦手だ。言葉は鋭いし、声も冷たい。視線だって痛いし、なにより。
「、う」
「まだ何もしてなかったのに」
唐突に宙の頬を片手で押さえ込むように挟んだ大地が、面白がっているみたいにそう、声を弾ませる。
顔を合わせればこうして気紛れに、宙が嫌がることを泣き出すまでするところが、とっても苦手だ。
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