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聞きなれた携帯のアラーム音に、ふるりと宙の長い睫毛が震える。重い瞼をゆっくりと押し上げた宙は、薄緑色のカーテンを透過する朝日に、夜が明けていることを知った。
雨上がりの澄んだ空気が、宙の泣き腫らした目を労わるように優しく降り注ぐ。
──……目、重たい……。
眠気と相まって開かない宙の瞼が、瞬きとも言えないほど緩慢に上下する。
泣きすぎたせいか、昨夜のことはあまり覚えていない。どうしようもないほど心が痛くて、一緒に目が溶けてしまいそうなくらい涙を零したことだけは、鮮明だけれど。
──……それでも、まだ……。
携帯のスヌーズを切った宙が、のっそりとベッドから身体を起こす。柔らかいマットに座り込む宙の背を、暖かい布団が撫でるように落ちていった。
もう1滴も出ないと思うほど泣いたのに、それでもまだ、胸が痛い。大樹を思うだけで、目頭がジンと熱くなる。
こんな状態なのに、昨日までと変わらない自分を装って隣に並ぶなんて、出来るんだろうか。
──泣くのだけは、だめだ。
右耳たぶを柔く挟みながら、宙が自嘲的に笑う。
出来るか出来ないかじゃない。しなきゃ、いけないんだ。
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