泪の代償

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* * *  聞きなれた携帯のアラーム音に、ふるりと宙の長い睫毛が震える。重い瞼をゆっくりと押し上げた宙は、薄緑色のカーテンを透過する朝日に、夜が明けていることを知った。  雨上がりの澄んだ空気が、宙の泣き腫らした目を労わるように優しく降り注ぐ。 ──……目、重たい……。  眠気と相まって開かない宙の瞼が、瞬きとも言えないほど緩慢に上下する。  泣きすぎたせいか、昨夜のことはあまり覚えていない。どうしようもないほど心が痛くて、一緒に目が溶けてしまいそうなくらい涙を零したことだけは、鮮明だけれど。 ──……それでも、まだ……。  携帯のスヌーズを切った宙が、のっそりとベッドから身体を起こす。柔らかいマットに座り込む宙の背を、暖かい布団が撫でるように落ちていった。  もう1滴も出ないと思うほど泣いたのに、それでもまだ、胸が痛い。大樹を思うだけで、目頭がジンと熱くなる。  こんな状態なのに、昨日までと変わらない自分を装って隣に並ぶなんて、出来るんだろうか。 ──泣くのだけは、だめだ。  右耳たぶを柔く挟みながら、宙が自嘲的に笑う。  出来るか出来ないかじゃない。しなきゃ、いけないんだ。
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