泪の代償

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「宙? 起きてる?」  眩しい朝日をぼんやり眺めながら意志を固めていた宙が、控えめなノック音と柔らかい母の声に振り向く。 「(起きて──)」 「宙? まだ寝てるの?」  コンコン。もう1度、今度は少し強めのノック音が響く。  宙は返事と重なってかけられた母の声に、重たい瞼を弾くように押し上げた。発したはずの声が、音になっていない。 「……もう、開けるよ?」  ガチャリとドアノブが下がる。焦れた結果の行動だろうに、ゆっくりと開かれた扉から顔を覗かせた母は、起きている宙の顔を見るなり、表情を安堵に綻ばせた。 「なんだ、起きてるんじゃない。返事してよ」 「(……、母さん)」 「……なに、え? 」 「(声、出ないんだけど……)」  はくはくと、無音の唇が開閉を繰り返す。普段通りから怪訝、そして焦燥へと表情を変えた母の顔色が少しずつ青ざめていく。
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