泪の代償

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 震えない喉に手をあてる宙は、不思議と冷静な頭で考えていた。  もしかしたらこれは、代償なのかもしれないと。 「あなた、声……」 「(うん。そうみたい)」 「とりあえず病院行きましょう。学校には連絡してくるから、出かけられる用意していて」 「(でも、母さん仕事は──)」  慌てふためいた母の背中が、宙の言葉を待たずに扉の向こうへと消えていく。パタンと閉じた扉に、宙は力が抜けたように腕を落とした。  いっそ不気味なほど、気持ちが落ち着いている。声が出ないなんて大変なことなのに、宙はどこか安心していた。  だってこれでもう、勝手に溢れてしまうことさえ出来ない。 ──きっと、必要な代償だったんだ。  階下で聞こえる母の足音を遠くに、宙はぼんやりと窓の外を眺める。宙の唇が淡く、弧を描いた。
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