視線の先

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 不安げな母から次に飛び出すであろう質問を先読みした医師が、治療法までを丁寧に説明してくれる。そうですかと答えた母の声は、ほんの少し落ち着きを取り戻しているようだった。 「それで、カウンセリングについてですが」  パラッと問診票を取り出した医師が、大人しく座る宙を見やる。検査を終えてから初めて向いたその目に、宙は知らず身を硬くした。医師の視線がふわりと和らぐ。 「基本的には、君と担当医の2人で行います。状況によってはお母さんも一緒にということがあるかもしれませんが、まずないと思っていて貰って大丈夫です」 「(……、はい)」 「また、話したことが漏れ出ることはありません。もちろんお母さんにも。だから、年の近い兄に相談するような感覚で、まずは少しずつ、話をしてみてください。合わないようなら、担当医の変更も可能ですから」  食わず嫌いにとりあえず食べてみろと勧めるような、軽い口調での説明に宙がふっと微笑む。つられて笑った医師の安堵が滲むそれは、目元を遮る細いフレームが勿体無く思えるほど穏やかだった。少し、胸が痛くなる。
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