視線の先

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 誰の返事も待つことなく開いた扉から、たまたま寄ったとばかりにしれっとした様子の大地が顔を覗かせる。わずかに警戒していた大地の鋭い目が、見た目には変わりない宙を見るなり、ふっと安堵に綻んだ。 「……なんだよ。思ったより普通じゃねえか」 「大地、それもう俺がやった」  さすが双子と言いたくなる発言の被りに、大樹が苦い顔で笑う。訝しみながらも問い返しはしない大地は、当然のように宙の勉強椅子に腰掛けた。  大樹とは違う、射抜くような目がじっと宙を見る。 「なんとなく話聞いた。声、出ないんだって?」  静かだからこそきつく聞こえる声を前に、宙は小さく頷くしか出来ない。無音の部屋に、大地の舌打ちが響いた。 「原因は」 「分からないみたいだよ」 「お前に聞いてない。心当たり、何かないのか」  問い詰めるようなそれを気遣って間に入ってくれた大樹も、鋭い視線につい口を閉ざしてしまう。椅子ごと詰めてきそうなその勢いに、宙はまたもふるふると首を横に振った。再度、舌打ちが響く。
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