視線の先

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「……別に、どう取られててもいいけど」  パズルのピースを嵌めるように、机のなかに椅子を収めた大地がぽそりと呟く。警戒心を隠しもしない宙は、振り向いたその目に小さく息を飲んだ。 「言ったことに、嘘はねえよ」  獲物がかかるのを待つ蜘蛛のような、静かな瞳だった。 「ごめんね……て、あれ。大地帰るの?」 「おー。いても仕方ねえから」  開くと知っていたみたいに傍に避けていた大地が、大樹と入れ替わりに部屋を出て行く。ひらりと手を振ったその姿は、あっという間に見えなくなった。 「……、何かあった?」  ぱたんと静かに扉を閉めた大樹が、どこか刺々しい空気にそう小首を傾げる。宙は大地が消えた扉から目を離し、何もないと首を横に振った。  頭も心も忙しなくて、宙自身、事態が飲み込めていない。怯える子供みたいに小さくなるしか出来ない宙は、訝しむ大樹にも構わず、ただただ膝を抱えていた。
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