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夏に逆戻りしたような、日差しの鋭い朝だった。
「おせえ」
玄関扉を閉めることも忘れて固まった宙に、門扉の向こう側に立つ大地がそう悪態を吐く。面白がるように頬を緩めた大樹が、宙の目を惹くようにひらりと手を振った。
「おはよう、宙」
「(お、おはよう……)」
「3人で登校なんて、いつぶりだろうね」
いつも通りどころか、普段より少し上機嫌な大樹の楽しそうな声が、漂う緊迫した空気のなかで浮つく。訝しむ気持ちを隠しもしない宙に、そっぽを向いていた大地がチッと舌を打った。
「……ちらちら見んな。鬱陶しい」
「(だ、だって)」
「んだよ。俺がいんのはそんなに不満か」
ハッと自嘲するように鼻を鳴らした大地に、大樹が呆れたようなため息を吐く。見当違いなそれに、宙も思わずむすっと口を尖らせた。
「(誰もそんなこと言ってないだろ)」
「目が言ってんだよ。この泣き虫」
悪口や口答えはあっさりと読み取る大地が、不貞腐れたような顔をして宙の頬を左右から引っ張る。痛みを感じない程度に配慮されたそれに、宙はうーうーと声なく抵抗を示した。
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