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「悪いとか思うな。俺だってお前の傷を利用するんだ。お互い様だし、……俺にはメリットしかない」
割れたのでは。なんて思ってしまうほどジンジン痛む額を押さえ、宙がじっと大地を見上げる。いつも意地悪ばかりの彼から紡がれるそれっぽい言葉は、むず痒くも嬉しかった。
「(……うん。ありがと)」
「分かればいい。あいつら、撒くか?」
「(ううん。邪魔するのは俺だから)」
「……よく分かんねえけど、分かった」
難しい顔で読唇出来なかったと打ち明けながらも、大地が曖昧に頷く。そのいい加減ささえおかしくて、宙はゆっくりと微笑んだ。
──……身代わりなんてことは、出来ないけど。
「(明日、昼に顔出す)」
「明日の昼、待ってるからな」
思い切り重なった言葉に、宙が声なく吹き出す。読み取れなかった大地は、訝しむように眉根を寄せていた。昼休みが始まってすぐの陰鬱とした気分が嘘みたいに、心がホカホカと暖かい。
「じゃあ、宙くんまたね!」
ひらひらと手を振る和彦たちに笑みを返して、仏頂面のまま教室に戻っていく大地の背を見送る。大樹と過ごす昼休みとは違う、落ち着かないけれど楽しい時間の終わりは、ほんの少し寂しく思えた。
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