不器用な想い

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 目まぐるしい1日だった。風呂上がりの濡れた髪を乱雑に拭い、窓際のベッドへと深く体を沈めた宙が息をつく。ゆっくりと瞼を下ろせば、頭の奥が溶け出すような感覚がした。  大地が迎えに来てくれていた今朝のワンシーンから、まるでスライドショーのように今日の出来事が流れていく。秋と夏が混在する葉の色が瞼の裏に広がった途端、宙はぱっとその瞼を上げた。 「お前の気が済むまでは、好きでいさせろよ」  少し掠れた、緊張の滲む重たい声がリアルに思い出されて、宙は浅く瞼を伏せ直す。とっくに消えた感触まで蘇るようで、つい、いつもよりしっとりした唇を手の甲で擦った。  弁解しておくと、それは決して嫌悪からの行為ではない。同性である大地相手に唇が触れ合ったことにも、静かだけど重い好意を向けられたことにも、そんな感情は抱かなかった。当たり前だ。宙も、大樹に同じものを向けているのだから。  風呂上がりの柔らかい唇が、自分のものでないように肌に吸い付く。それが媚びるようで気持ち悪く思えた宙は、離した手をそのまま、天井へと伸ばした。
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