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大地は、昔からずっと変わらない。口下手で感情表現が苦手な宙の泣き癖を揶揄しては、ほら泣いたと笑う。
それが悔しくて更に止まらなくなる涙を拭いてくれるのは、いつも泣かせた大地じゃなくて──。
「ごめんね、宙。おまたせ……て……」
ガチャリと扉が開く音につられて振り向いた宙に、柔らかく笑っていた大樹の目元がふと険しくなる。宙は覚えのありすぎるその表情に、慌てて濡れた頬と涙をためた目を拭った。
「お、おはよう。大樹」
「……宙、目こすらないで。赤くなる。大地は?」
「えと、先に行くって……」
ぐしぐしと目元をこする宙の腕を止めながら、大樹が冷ややかに問いかける。漫画に出てくる王子様キャラとまで言われている大樹らしからぬそれに、宙はこくんと喉を鳴らし、大地が消えた方向を見た。
余談だけれど、こういう態度の時の2人は、本当によく似ている。
もうとっくに曲がり角の向こうに消えている大地を探すように見ていた大樹は、諦めたようなため息とともに切り替えた表情で宙を振り向いた。
見慣れた、木漏れ日みたいに優しくて暖かい目が、申し訳なさそうにかげる。
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