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「ごめんね、宙。またあいつ、余計なこと言ったんでしょう」
「あ、ううん。大丈夫。もう涙も止まったし、いつも何も言えないで泣いちゃう俺も俺だし」
「どう考えても泣かせるようなことする大地が悪いんだけどね。ハンカチは?」
「ある。けど拭いちゃった」
涙と摩擦で赤くなった目を細める宙に、大樹が仕方ないなとばかりに柔らかく笑う。
「ごめんね、宙。帰ったらちゃんと注意しておくから」
「注意って……気にしないで。そういえば、大樹のお説教は長いって、前に大地が言ってたかも」
「……2倍にしてやる」
「えっ」
親のようなことを言う大樹にくすくす笑って口を滑らせた宙に、大樹が彼のイメージとお合わない剣呑な声で呟く。
クラスメイトや教師に見せる顔とはまるで違う、少しばかり意地悪で冷たいその一面を隣で見られている特別に、宙はそっと息をついた。
胸を柔らかく締め付ける甘い感覚は、きっと不特定多数への優越感だ。
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