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大樹の彼女がつぐみであると知ってから、宙はますます慎重に、大樹との距離を取るようになった。
あからさまに親しい雰囲気を出さない2人の関係を知る者は多くないようで、移動教室や休み時間は変わらず大樹と一緒に過ごしている。ただ、宙から声をかけることはなくなった。
2人の邪魔にならないように、なんてのはただの建前で、実際は、まだ胸を苦しめる想いを整理するための時間が欲しいだけ。自分のための我儘だった。
「それで、ひとりで帰ってるって?」
いつも通りの昼休み。先週と同じように英語のノートを借りたいとやってきた大地が、呆れた顔で宙を見下ろす。
昨日の放課後、ひとりで下校する宙を見たという大地に問われるままに話した宙は、不服そうなその顔を見上げ、当然だと1つ頷いた。
「声も出ねえくせに」
「(?だって、帰り道に声は必要ない)」
ぴたりと大地が手を止める。半端に開かれたノートが、はらりと静かにページを変えた。
「そうかもしれないけど、そうじゃなくて」
両手を合わせるようにしてノートを閉じた大地が、心底呆れたと顔を歪ませる。
ひとりで下校を始めて1ヶ月と数日。風の音ばかりな帰り道にも慣れてしまうくらいには、月日が経っている。なにが心配だと言うのか。
けろっとした宙の様子に、大地が深く息を吐いた。
「1人のときに何かあったら、お前どうすんだよ」
教室の喧騒が遠く思えるほど、大地の声は真剣で重かった。ついきょとんと瞬きをした宙だったけれど、すぐにその口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。
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