伸二との出会い

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伸二との出会い

 私はK高校の女子高生だ。女子高生にありがちな、何も考えていない感じ、っていうのがすごく嫌で、結構真面目に真剣に生きている。  でも結局、世の大人たちからすれば、何も考えていない感じで、頭に花でも咲いているように見えるんだろうなーって、そこがとても悔しい。  私には彼がいる。彼とはとあるショッピングセンターの一角にある衣料品売り場で知り合った。知り合ったって言うのは少し語弊がある。衝突、みたいな感じだ。  私がお気に入りのジーパンを探して、たまたま普段は入らないであろう、こういった感じの庶民向けのスーパーで色々と採寸して試し、試着しながら、過ごしていた時の事だ。  「あの、ここ空いてますか?」  彼が登場して、ドレッサールームに入ってこようとするので、慌ててドレッサールームの順番を変わった。なんだか超イケメン。胸がキュンって締め付けられて顔が赤くなっていくのがわかる。  「あの・・私。付き合いたいです・・。」  次の瞬間真顔で私は言っていた。咄嗟の出来事で自分でも驚いた。なんでだろう。自動的に?そういうスイッチが入った人形のように自然と告白をしていた。  告白された側の彼も、  「あ・・なんだかわからないけど、友達からだったら。」  なんて言ってくれて友達から始める事になった。  彼と交際を続ける事半年。彼にプレゼントとして財布を贈る事にした。彼の反応は、  『千代子かと思った。』  だった。千代子って誰?彼からメールが届いたのがショックで、しばらく彼と会うのをためらった。それが気になって気になって仕方がなくて、気が付けば1年が経過してしまった。  友達にその悩みを打ち明けた。  「それってさ、チョコかと思った、ってのを打ち間違えただけじゃね?」  そんな風に軽々しくジョークでかわされた。  時期はバレンタインだったし、たしかにチョコを千代子って入れ間違うってあると思うし・・。でも結局、友達の助言は何の役にも立たなかった。    「チョコって入れるところ、ちよこって入れて、その漢字に変換するの大変だよね?」  と私。  「じゃぁ、元カレ・・・ごめん、彼氏のお母さんが千代子で、たまたまショートカットして出現したとか!あの文字がいっぱい出て来るところあんじゃん。」  「すごい確率低くね?」  「そうだけどー。なんかわかんない。っていうか自分の彼と1年も会えなくて平気なのが理解できない。」  「私もこんなに引きずるとは思ってなかったな。」  「え?だって、彼から全然連絡無いんでしょう?新しい恋に目覚めなよー」  「うん。ぱったり。あのメール以来一度も無い。」  「それも不自然だよねー。」  「新しい彼女、やっぱりできたのかな。」  「結構イケメンだったんでしょ?」  「超イケメンで、体中全身ビリビリってしびれる感じだった。」  「その人会わせてよー。私もビリビリしたいー。」  そんなやり取りをしたのが今日の夕方。 ***  私の自宅は一軒家だ。  見晴らしの良い丘の上に建てられている。  同じような形をした家が近所に何軒も軒を連ねて並んでいる。  このあたりは海の見える景観の良い場所で、大きな庭面積を売り言葉にした建売の物件だった。    月に1回はそのお庭で家族全員でバーベキューやパーティを催した。  あれだけ仕事にのめりこんでいた父親が、戸建てを購入したとたんマイホームパパになったと、母親はとても喜び。  母親はそれまで勤めていたパートを辞めてしまい、在宅でできるライティングの仕事を新しく始めていた。  一般家庭にはありがちな一人娘の思春期の不自然さに、両親が出した答えが、このマイホーム購入だったのかもしれない。  ある日、インターネットでたまたま1年前に彼氏に贈ったものと同じようなデザインの黒くて大きな皮の財布を見つけて驚いた。ブランド名に『千代子』と刻印されているではないか。  その後、気になって調べて行くと、私が贈った財布は『千代子』から独立した職人たちが立ち上げた会社で作られた財布だとわかった。  「だから形や雰囲気が似ているのか・・・。」  私は急いで1年前のメールの返信を送る。  『千代子じゃなくてごめんね。』  メールを送って数分後。  『いいよ、気にしてない。このブランド俺も好きだし。今も愛用してる。この財布。ありがとう。』  一旦止まっていた時計の針が、再び動き始めた。  私は彼と次に会うデートの約束をした。  噴水がとても良く飛び散る公園の一角を待ち合わせ場所に指定した。  当日私は彼を待つ。水色の模様が入ったワンピースと麦わら帽子。髪は赤いリボンで結った。暑い日差しにジリジリとセミの鳴く声。私は彼が登場する事を待った。  しばらくして彼が登場。私は再び彼に再会することに成功した。  「どこ行く?」  彼は私に目線を投げかける。  「あ・・どこでもいいけど・・」  「じゃぁさ、美味しいアイスクリーム屋さんがあるんだけど、そこ行く?」  「うん。」  私は彼の歩く後をゆっくりと追い、信号が私達の間を阻もうとする都度、小走りになりながら追いかけた。  あつい。汗がしたたる。  彼はアイスクリームを買ってくれる。彼から聞いた噂どおりとてもおいしい。  「かわいいね。」  彼が真顔で言う。  私はなんて答えて良いかわからない。  ひたすら、真夏の太陽の眼差しが強い。じりじりと焼ける。  「紫外線防止対策してる?」  「うーん。してこなかったかな。」  「それは大変だ。ここの建物の中に入ろう。」  「いいよ、そんなの気にしてないし。」  彼は私の手を引き、少し強引にそのまま建物の中に私を案内する。少し怖い。  「大丈夫だよ。心配しないで。」  強烈な冷房がひんやりと体を包む。  少し地下の奥まったところ。たくさんのCDやDVDが並んでいた。自由に視聴もできるらしい。  手前側はファッションショップになっている。細くてカワイイ感じの子が着るようなワンピースをマネキンがお洒落に着こなしていた。  「こういうところ来た事ある?」  「ない。」  「そうだよねー。高校生じゃ。」  「うん。」  「そうだ。私高校生だからさー。触った瞬間に淫行条例で逮捕されると思う。午後5時くらいに開放しないと、警察来る。」   「君、法律詳しいねー。」  「学校で先生が結構毎日言うから。君たちかわいいから、さらわれないようにって。念押しで念仏みたいに、毎日聞かされてる。」  「別に襲ったりしないよ。」  「うそ。男の人はみんな体目当てだと思うし。」  「そんな男じゃないよ。俺は。」  「本当かなー?」    そう言うと、彼は私の額をデコピンするようになでた。  「まだまだ、そういう恋には早すぎるって。」  彼は私をそんなふうにあしらうと、淡いオレンジ色をしたノースリーブのワンピースをプレゼントしてくれた。  この日のデートは全部彼のおごり。彼はお金持ちだった。  「17時で帰さないと、僕は警察に捕まるんだね?」  「うん。私暗いの怖いから帰るね。」  「え、まって送るよ。車で。」  そうやって彼は駐車場に私を連れて行き、車に乗せてくれた。自宅の前まで送ってくれると手を振ってわかれた。今日一日、ときめき続けた。     
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