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「ごめん小沼くん、アコギ取って来るの時間かかっちゃった!」
市川が教室に戻って来たのだ。
ああ、amane様......!
「って、あれ、吾妻さん? どうしたの?」
そう言いながら市川は、自分の机の上に置いてあるノートを見て、状況をなんとなく察したらしい。
おれを一瞥し、演技がかった声で話し始める。
「あー、バレちゃったかあ。私、実は作詞とかしててさあ、そのノートなんだよね。照れちゃうなあ、もう」
おれをかばうために嘘をつきはじめる。
「別に、恥ずかしいものだとは、思ってないけど」
そんなフォローまで添えて。
なんだよ、市川。そんなかっこいいことすんなよ。
「......いや、違います」
うつむいたまま、くぐもった声で、吾妻がそう言った。
「え?」
「あたしの目はごまかせません! これは、amane様のコトバじゃありません! あたしが何千回amane様の曲を聞いたと思って......!」
机を叩いて立ち上がる吾妻。
椅子がその反動で倒れ、がちゃんと音を鳴らす。
「ええーっと......」
頬をかきながら、市川がこちらを見る。
「こいつ、amaneのファンなんだってさ」
おれは事実だけを述べる。
「ファンってか、信者だな」
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