第1曲目 第1小節目:出会い

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 やば。  Bluetoothの接続がされる前に再生ボタンを押してしまったらしい。  途端に、市川がこちらに身を乗り出す。 「ねえ! その曲、誰の曲!?」 「別に、誰の曲ってこともないけど......」  しどろもどろだ。  いつの間にか目の前にいる市川。ギターは机の上に置いてある。  ちょ、近い近い近い近い......!!!  市川は、おれのスマホを向かい側から覗き込もうとする。 「誰の曲ってこともないって何? 誰かの曲なんでしょ?」  指がもつれて再生を止められない。  音楽が流れ続けている。 「そ、そんなに、きょ、興味持たなくても」  舌ももつれる。  ダサい。  おれは、取りつくろうように、言った。 「大した曲じゃ、ないし」  そう言った途端、市川がキッとこちらをにらむ。  いやだから、近いんだってば。 「大した曲じゃない、って、なんであなたが言うの?」  あなた。  そうか、こいつの二人称は『あなた』なんだよな。  なんて、ひどく場違いなことが頭をよぎる。 「どんな曲だって、作る人が魂込めて作った大事な大事な曲なんだから、大した曲じゃない、なんて、作った人以外言っちゃいけないと思うんだけど?」    おれの意識が一瞬それている間に、市川の怒りがヒートアップしている。  いや、そうじゃないんだ。  あと近い。 「現にこの曲、すっごく良い曲じゃん」  おれのスマホの上の方を人差し指で抑えて、地面と水平にする。  画面に出ていた文字を見て、市川の動きが止まる。 「え、これって......」  ふう。  もう、言い逃れできない。 「そうだよ」  画面に出ている文字は『DEMO / 小沼拓人(おぬまたくと)』 「この曲は、おれが作った曲だ」
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