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「......ほんとに?」
「ほんとに......」
ああ、やってしまった。
よりによって、あの市川天音にバレるなんて。
16時のチャイムが教室に鳴り響く。
「すっごく良い曲じゃん!」
ややあって、市川が大きな声で言う。
目を爛々と輝かせながら。
「小沼くん、作曲できるの?」
「出来るってか、やってるだけだけど」
「ええー、全然知らなかった!」
「まあ、誰にも言ってないから」
「どうして?」
「……誰にも知られたくないから」
「そうなの? 良いじゃん! 作曲出来るの、すごいのに! 本当に、すごい......」
何言ってんだ。
おれは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
原因は、照れじゃない。『怒り』だ。
「......市川だって」
「ん?」
「市川だって、作曲出来るじゃねえかよ」
「え......?」
市川の瞳が揺れる。勢いが突然なくなる。
「出来ない、みたいな顔してるけど、市川だって作曲できるだろ」
「いや、私は、弾き語りやってるだけで......」
俯く。
「作曲も作詞もできない、みたいな顔して他の人の曲ばっかやって」
「......どういうこと?」
「なあ、市川は、amaneなんだろ?」
市川がハッと顔を上げる。
唇がわなわなと動く。
「それ、知って...?」
こらえきれなくなった言葉が出てくる。
「知ってるよ。だって、おれは」
決して言わないつもりだった言葉が。
「あなたに憧れて作曲を始めたんだから」
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